瀬戸市立八幡小学校で講義をしました。

平成29年11月27日、八幡小学校で「いのちの大切さ」についての授業をしました。小学校5、6年生の生徒達が一生懸命に聞いてくれてとても良かったです。命が大切なのは誰でも漠然と分かります。ただそれが何故大切であるのかを今回の授業では色々な角度からお話しました。一部内容の難しいところも有ったと思います。それでも生徒達はとても熱心に聞いてくれました。そして最後に代表の生徒の感想が、僕が生徒たちに思って欲しかったことそのものの答えだったことがとても嬉しかったです。少し難しかった生徒たちがいたら、下に全文を載せますのでもう一度参考にして下さい。

命の大切さについて  八幡小学校校医 大竹一生

悲しみの理由

皆さんは人が一人死ぬことをどう思いますか。この中でご両親が無くなられている人もいるかも知れません。その人はもう充分に分かっていると思いますが、ご両親ともに生きている生徒は、もしもお父さんやお母さんが死んでしまったらどう思いますか。悲しみで一杯になるでしょう。でもその悲しみはどうしてわき起こるか分かりますか。悲しみは悲しみであって、他には何も無く、理由など考える必要も無いかも知れません。でもこの授業ではあえてその理由を考え、その上で命が何故大切で有るかを考えたい。もしも、ご両親では無く、おじいちゃんやおばあちゃん或いは親戚のおじさんやおばさんと一緒に過ごしている生徒がいたら、お父さんやお母さんの代わりにその人達のことを想像して下さい。今、お父さんとお母さんは君たちに対して、何を思い何をしているでしょうか。お父さんとお母さんは君たちに幸せになって貰いたいと願っています。君たちに立派な大人になってもらいたいと思っています。君たちが生まれてきたからには、この世界のことに興味を持ち色々なことを知ってもらいたいし、この広い世界を目一杯楽しんでもらいたい。満面の笑みになってもらいたい。お父さんとお母さんはそう願っています。お父さんとお母さんはその反対のことを願っていません。君たちに不幸せになってほしくない。病気になってもらいたく無いし、笑顔が無くなって欲しくもない。お父さんとお母さんは君たちのことを未来の希望だと思っている。一番大切な宝物だと思っている。お父さんとお母さんは君たちに大きな願いを持っています。それはお父さんとお母さんがそのお父さんとお母さん、つまり君たちから見ておじいちゃんとおばあちゃんからもらった沢山の愛情、幸せ、素敵な思い出を、そっくりそのまま君たちにプレゼントをしたいと言う大きな大きな願いです。おじいちゃんとおばあちゃんも、ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんから、ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんも、ひいひいおじいちゃんとひいひいおばあちゃんから、ひいひいおじいちゃんとひいひいおばあちゃんも、ひいひいひいおじいちゃんとひいひいひいおばあちゃんから、ひいひいひいおじいちゃんとひいひいひいおばあちゃんも、ひいひいひいひいおじいちゃんとひいひいひいひいおばあちゃんから沢山の愛情、幸せ、素敵な思い出をもらったのだろうと思います。そう考えると大昔から途切れること無く親から子へ、子から孫へ、脈々と愛情のリレーが続いている訳です。時代は変わってもその愛情は全く変わらないものです。

お父さんとお母さんが死んでしまい悲しくなるのは、もうその愛情を受けることが出来なくなってしまうと思うからです。

確かに人は必ず死にます。生まれた人はいつか必ず死を迎える。死んでしまえば肉体はこの世から無くなってしまいます。もうどこにも見当たらない。たとえ会いたくても、どれだけ探しても、もう見つけることができない。でも本当に死んでしまったら何も無くなってしまうのでしょうか。

お父さんとお母さんのいるところ

ところで、人間を始め動物には遺伝子という体の設計図があります。その設計図をお父さんとお母さんから半分ずつもらい、僕たちはその設計図を元に体が作られ 生まれてきます。そのため僕たちの体はお父さんとお母さんの体を半分ずつ混ぜて作られた体をしています。多少はお父さん似 お母さん似は有りますが、見た目だけでは無く、体の中、頭の中、心の中までその設計図を元に作り上げられています。お父さんもお母さんも、そのお父さんとお母さんから遺伝子を半分ずつ貰っていますから、君たちはお父さんの両親、お母さんの両親の全部で4人から遺伝子を貰って作られているとも言えます。このように昔に遡っていくと、自分の体は先祖から代々受け継がれたもので、大勢の先祖たちの遺伝子が混ざり合っていることが分かります。いなくなり、もう会えないと思ったお父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんは、実はまだ君たちの体の中で、君たちの体の一部として生きています。自分の体のことをよく考え、感じて見て下さい。小さなことでも大きなことでもいいです。君たちのお父さんとお母さん、或いはおじいちゃんとおばあちゃんに似ているところは無いですか。例えば目、鼻、口、耳、体格、肌の色、髪の毛の色、指の形、手の温度、足の温度、汗かきかそうでないか、咳、くしゃみ、あくび、いびき、得意な勉強科目、苦手な勉強科目、好きなスポーツ、嫌いなスポーツ、趣味、特技、性格、好きなこと、嫌いなこと、好きな食べ物、嫌いな食べ物、好きなもの、苦手なもの、好きな動物、苦手な動物。もし何か一緒のものが有ることが分かったら、それは君たちのお父さんやお母さんから貰ったもので、君たちの体の中にお父さんとお母さんがいる証拠です。

もう一つの居場所

それともう一つ僕たちの中には、お父さんとお母さんがいる場所が有ります。それは僕たちの頭の中、記憶の中です。お父さんとお母さんと過ごした沢山の思い出は頭の中にしっかり残っています。思い出せない遠い記憶も細かく思い出せないかも知れませんが、暖かさとか温もりとかの感覚だけは正確に覚えています。誰かと沢山の時間を過ごしていくと、その人がどのような性格かが分かってきます。何かを質問すると、多分こんな返事が返ってくると予想がつきます。もともとお父さんとお母さんの設計図から作られた頭ですから、君たちがお父さんとお母さんの返事を予想することは、他の人たちが君たちのお父さんとお母さんの返事を予想するよりも簡単でその上正確です。

もしも寂しくてお父さんとお母さんに会いたいと思うことが有ったら、目を閉じて、自分の体を触り、そしてお父さんとお母さんを思い出して下さい。そこに出てきたお父さんとお母さんに、会いたい気持ちを伝えて見て下さい。そしてどんな返事が返ってくるか想像してみて下さい。お父さんとお母さんが生きている人も一緒に想像してみて下さい。慰めてくれたり、励ましてくれたり、勇気をくれたり、反対に怒られたりした人もいるかも知れません。その返事は体の中にいるお父さんとお母さんからのメッセージです。

愛情を注いでくれる人たち 1

話しを少し広げます。君たちに愛情を注いでいるのは、君たちのご両親やおじいさんおばあさん、ご親戚の方だけでしょうか。実は色々な人が君たちや、君たちの生活を守っています。例えば水。水が無ければ僕たちは4、5日で死んでしまいます。水は蛇口をひねればすぐに出てくる。でもそのためには水を蓄えることの出来るダムが必要です。僕たちが水を飲むためにはどれだけの人が関わっているのでしょうか。ダムを作った人、ダムの管理をする人、浄水場を作った人、管理をしている人、水を運ぶパイプを作った人、点検する人、キッチンを作った人、販売する人、設置する人、コップを作った人、販売する人、そして水の使用量を払うお父さんやお母さん。水を飲むだけでもこれだけ沢山の人達が関わっています。水が無ければ死んでしまうので、言い換えるとこれらの人達が君たちの命を守ってくれています。ここまで育った体は、勝手に大きくなったわけでも無く、お父さんやお母さんだけの力でも無い。社会の人たちが力を併せて、君たちが元気に育つことを願った結果です。

愛情を注いでくれる人たち 2

それともう一つ、先ほど出てきた、遺伝子のことを思い出して下さい。「世代」と言う数え方があり、お父さんとお母さんの世代は2人、おじいちゃんの世代は4人いました。これを何世代も遡ると、33世代前まで遡れば85億人です。20才で子供を産むとして33を掛けるとたったの660年。世界の人口は約74億人ですが、660年前つまり室町時代の日本の人口が、現在の世界の人口を超えているはずは無く、そんなに昔に遡らなくても、僕たちの先祖の多くが同一人物になると分かります。これは日本から世界に枠を広げてもあまり大きな差はありません。こう考えると世界中の人たちが同じ先祖から受け継いだ遺伝子を持っていることが分かります。今、クラスにいる ほかの生徒たちを見て下さい。お父さんやお母さんと外国から日本に引っ越してきた生徒もいるでしょう。顔の形、声、性格。すごく違っているように感じるけど、僕たちと世界の人たちの遺伝子は進化学と言う学問的には全く差が無く同じ生き物なのです。戦争が絶えないのは一部の大人達がこのことを勉強せずに育ち、外国の人たちや容姿の違う人たちを違う生き物かのように扱うからです。同じ仲間として考えれば、このように悲しい出来事は無くなっていくでしょう。みなさんも誰かのことを変わっている、自分と違うと思ったら、このことを思い出して下さい。その人の先祖は、自分の先祖と同じ人物で、その人にも自分の体と同じ遺伝子があることを。そして、その上で、その人たちにお父さんやお母さんから貰った愛情を少しだけ分けてあげて下さい。お父さんやお母さんが、君たちに幸せになって貰いたいと願ったように。その愛情は同じ先祖からもらったものなので、与えられた人は、君たちがお父さんやお母さんから貰ったときに感じた幸せな気持ちと全く同じ気持ちになるでしょう。

世の中には、一見他人のように見える世界の人たちを、本当は同じ先祖を持つ仲間同士だと分かって活動している人たちがいます。その人たちは遠く離れた地で、水不足や食糧不足、感染症や栄養失調症などの病気、地震や台風などの災害、紛争や戦争被害などで困っている人たちを自分や自分の家族のように考え、そして行動し助けに行っています。その人達のような立派な大人になることは簡単では有りませんが、まずはニュースや新聞などを通して、その人達が何をしているのかを知り、その人たちの気持ちが理解出来るようになって下さい。

病気について

自分が病気になったときのことを思い出して下さい。この中で1回も病気や怪我をしたことが無い人はいますか?その人達は、自分が病気や怪我をしたことを想像してみて下さい。風邪や骨折などで学校を休んだとき、お父さんお母さんは心配したに違い有りません。入院するほどの病気をしたらどうでしょうか。心配で夜も眠れなくなるお父さんお母さんも現れるでしょう。おじいちゃんもちび丸子ちゃんが病気になったときの友蔵じいさんのような気持ちになるでしょう。病気は自分だけが苦しいものでは無いのです。そのため病気にならないように精一杯気を付けなければいけない。幸い、僕たちには病気にかからないための色々な智恵があります。風邪にならないように手洗いやうがいをして夜更かしをしない。運動で怪我をしないように準備運動をしっかりする。登下校では事故をしないように車には充分気を付ける。メタボや生活習慣病にならないように食事や運動に気を配る。自分の健康は自分だけの問題では有りません。将来、君たちが大人になって家族を持ったとき、君たちが病気になったら家族全員が困ってしまいます。そのために今から病気や怪我をしないような智恵をつけて下さい。

だからと言って心配をかけたくないあまり自分の病気や悩みを隠してはいけません。病気を隠し自分を犠牲にして、誰かに心配をかけさせないようにする努力は間違っています。自分を犠牲にしてまで頑張って欲しくないと、君たちを大切にしている人達は思っています。

死について

別の話しをします。今、日本人の平均寿命は男性が81才、女性が87才。君たちは11~12才だから、平均寿命まではあと70年くらい有ります。でもみんなが80才で死ぬとは限りません。100才まで長生きする人もいれば、残念だけどもっと早く死んでしまう人もいます。死はいつ訪れるか誰にも分かりません。僕も明日生きている保証は無いし、君たちも生きているとは限りません。急に病気になったり、事故にあったりするからです。悪口言って喧嘩をしてしまった友達が、君が謝る前に急に死んでしまうかも知れない。そうしたら、その友達にもう一生謝ることが出来ません。また、別の友達は、あと数年しか生きることの出来ない病気にかかってしまうかも知れない。君の大好きなお友達が、あと数年しか生きることが出来ない病気にかかったらどうしますか。そのお友達の残された時間を少しでも大切にしたいと思ったり、そのお友達が望むことを少しでも叶えて上げたいと思ったり、1秒でも長く一緒にいたいと思ったりするでしょう。命があと70年もあるとピンと来ないかも知れませんが、こうやって死が間近に迫ってきたことを想像すると、その大切さが少し分かってきます。遅く死ぬ人もいれば早く死ぬ人もいる。そのことをしっかりと心にとどめ、一日一日を大切に生きて下さい。そしてそのことは他の人たちにとっても全く同じです。他の人の一日一日もかけがえの無い大切な時間です。その時間も大切にしてあげて下さい。

おじいちゃんとおばあちゃん

おじいちゃんやおばあちゃんは、君たちに比べるとあまり早く動けません。もう仕事や家事を出来なくなっているおじいちゃんやおばあちゃんもいるでしょう。もしかしたら、ご自宅や介護施設のベッドの上で静かにときを過ごしているおじいちゃんおばあちゃんもいるかも知れません。でも昔は君たちのお父さんやお母さんのために頑張っていました。そして君たちのお父さんやお母さんは立派な大人になれたのです。おじいちゃんやおばあちゃんとお話しが出来るチャンスが有るならどんどんお話しをして下さい。おじいちゃんとおばあちゃんにはもうあまり生きる時間が有りません。でも、そんな貴重な時間でも、君たちと話す時間に充てるのなら喜んでその時間を使うことでしょう。話す内容は何でも構いません。楽しいことでも悩みごとでも。おじいちゃんやおばあちゃんはとても長い人生を歩んできました。君たちが経験したことと同じようなことを経験しているかも知れません。何せ君たちにはおじいちゃん或いはおばあちゃんと同じ遺伝子が4分の1も有るのですから、同じような経験をしている確率はとても高いのです。だから話しをすれば、おじいちゃんとおばあちゃんの経験や体験から、楽しい話しであればより楽しい話しを、悩み事であればそれを解決する方法を教えてくれるかも知れません。君たちにとって、おじいちゃんやおばあちゃんと話すことはとてもためになります。それと同時におじいちゃんやおばあちゃんも、君たちから元気をもらうことができます。「健康年齢」と言う言葉が有ります。これは寝たきりや認知症にならずにいられるまでの年齢のことです。この健康年齢を延ばすためには君たちの会話がとても刺激になります。記憶は思い出すことが無ければ思い出せなくなります。君たちの会話で古い記憶をどんどん思い出せれば、おじいちゃんやおばあちゃんの健康年齢は確実に延びることでしょう。

心の支え

君たちに悩みがあれば、両親や先生、おじいちゃんやおばあちゃん、親戚のおじさん、おばさん、信頼できる人、尊敬できる人になるべく沢山相談して下さい。将来大人になって、もっと辛い悩みを抱えたとき、小さな頃に大人から聞いた教えが必ず心の支えになり、悩みや悲しみ、苦しみから抜け出すヒントを与えてくれ、君たちを救ってくれます。大切な言葉を沢山見付けて、気持ちの明るさを守る力、自分の命を守る力を蓄えて下さい。そして、君たちがもっと年をとり将来大人になったとき、子供たちや若者が同じ悩みを抱えていると分かったら、親身になって相談にのって上げて下さい。それがまたその子達の支えになり未来に向かって続いていくでしょう。

君たちの未来

君たちの未来はどんな未来でしょうか。未来はどうやって決まっていくのでしょうか。君たちの未来では、今の地球が抱えている環境問題はどうなっているのでしょうか。僕たち大人は今、地球温暖化と言う深刻な問題に対して、車の排気ガス規制をしたり、エアコンの温度を抑えたり、スーパーのレジ袋をやめてマイバッグを使ったり、君たちの未来を真剣に考えて行動しています。しかしそれでもそれが上手く行くかどうかは誰にも分かりません。君たちの住む未来の地球を、今のようにすばらしい地球のまま残せるかどうかは、大人たちにかかっているのです。君たちは大人たちが真剣に君たちの未来を考えていると思いますか。もし、大人たちに真剣味が足りないと思うなら、君たちが大きな声で大人に向かって叫べばいい。僕たちの未来を壊さないでほしいと。質問すればいい。なぜ僕たちの意見を聞かず、自分勝手な大人たちだけが地球の未来を決めているのかと。そうすればもっと大人は頑張ると思う。なぜなら、君たちのことを愛しているのだから。

命の大切さ

僕たちの先祖は全員奇跡的に子孫を残すことができ、最後に僕たちがこの地球上にいます。そう考えると自分の命がいかにかけがえの無いものかと感じると思う。大昔から今日まで僕たちは遺伝子だけでは無く愛情も脈々と途切れることなく受け継いできました。自分の命は自分だけのもののように感じるかも知れませんが、実は大昔からみんなが一生懸命生きてきて、最後にようやく君たちにバトンタッチすることができた愛情の一杯詰まった奇跡のバトンです。命のリレーをこれからもずっと続けてほしいと思って託した人達のことを考え、自分を大切にして下さい。そして、周りの人達も同じように大切にして下さい。

最後に

君たちはまだ若いのでお父さんとお母さんと接して10年ちょっとしか経っていません。今日の授業を聞いて、もしも命の大切さを少しでも感じることが出来たなら、これからもお父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃん、家族、親戚、学校の先生、お友達、近所のおじさんおばさんと沢山の思い出を作って下さい。そしてみんなから目一杯愛情を受けて下さい。それらが君たちの大切な命や君たちの大切な未来を支えてくれることでしょう。